死があなたを
Image by Anne Nygård
美樹へ

死があなたを

人から与えられる快楽は麻薬に例えられる
メタンフェタミンやクラックの安っぽい快楽は
通り過ぎていく人々のように
あなたの気を逸らせて
あなたを人に注目させる

メタンフェタミンやクラックの安っぽい快楽は
寝入りばなの快楽に勝ることはない
しかしそれは大衆の冷笑を受ける
なぜなら易々与えられるものではないからだ
ただ眠るその味わいは
この世で最も甘美なその味わいは
穴を塞ぐ代わりに置かれた油絵や
走り屋たちの峠にあり
嗜みないものには味わうことはおろか
扱うことさえ叶わない
もし傲慢にもその身を抱こうとすれば
蜘蛛の脚のような細い指で
ゆっくりと絞め殺される

人から与えられる快楽は麻薬に例えられる
陰鬱で飾り気もない寝入りばなの快楽は
全てを委ねる儀式を必要とする
人から与えられる快楽は麻薬に例えられるが
人から人へ渡るものはもっと緊密で
夥しく存在する人間たちのなか
ただ一人あなただけが迎え入れられる

あなたにはその器があった
あなたにはその味覚があった
あなたの身は蛞蝓のように溶け交わる
その境界の消失は
人が現世から消え去る眠りの永遠
生を受けたあなたに
唯一あなたに捧げられる

生きなかったものたちが求めてやまなかった生は
当たり前に与えられたあなたには下らないことだろう
そしてその対として存在する死もまた
あなたには退屈なものだろう
あなたはいま変わりゆく景色を愉しんでいる
あなたの齢がそうさせるのだろう
あなたの若さが激しさを求める
あなたの活発な肉体と精神は激しく燃えることを望んでいる

しかし死はあなたの影として添い続ける
例えあなたが人々の享楽に身を映しても

メタンフェタミンやクラックの安っぽい快楽は
あの安っぽい愛は
若いあなたの血肉を容易に燃やしてしまうだろう
ああ確かにそれにさえ嗜みは必要だ
人々が鼻白むあの安っぽい快楽でさえも
享受できる者はまた少ない
なぜならその味は
墨が入るのに傷を彫らねばならないように
若くやわらかい肉に咲いた無数の痛みがなければ
滑り落ちてしまうだけのものだから
若い動物の跳躍
その瞳から零れる鮮やかな血のかがやき
綺羅びやかで華やかであっけない
痛みと喜びの鉄臭い味は
例えばあなたの死のような
老いた硬い樹皮には味わえないだろう
あなたの影も若い頃は知っていた筈なのに
だからこそ眉を顰めるのか

日々や周囲はあなたを夢に連れていく
消えゆく美しい夢
枯れ落ちる花などないかのように
永遠に咲き続ける花園
朽ちたものたちの地上に咲く

あの重苦しい影が添っているのが見える
その影は美しい
静謐で重厚で変わることのない死
焦げ溶け崩れていくあなたは対照的だ
しかし私はあなたを見つめている
醜いあなたは美しい

生も死もない存在が
恣にできる私達を放っておかれるのは
鮮烈なあなたのかがやきのため
静謐なあなたの影のため
影は愚鈍にあなたに沿う
豪奢な花々には見えもせず
望む私にも成し得ない
朽ちゆくあなたを、すべてのみこんで

死があなたを組み敷く
甘美だった唇に触れようとして

14. あなたは死に愛される