バナジスの瞳
Image by Daniel J. Schwarz
美樹へ

バナジスの瞳

貴方が創造した草原
戯れに遊べば
貴方が回した酒が鈍くして
じりじりと燻ぶったまま
しかし甘い酒はいっそう水を蕩かして
触れるだけで溶けてゆく

橙の雲だ
燃えるような雲
貴方の瞳に

その炎のなかに私がいないことに気付く
その瞳に映っているはずの私が
空と貴方の間に跨って
貴方を占めている筈の私の姿が
そう気付けば私が映る
感情が安堵して眠る前に
理性が寂しさを訴える前に
私も貴方を透明にしていたことに気付く
橙色の雲のなかに

いっそ目を閉じてしまえば
揺りかごだった貴方は消え
草原だけが残る
しかし瞼を開けるのは
確かさの為だけではなくて

星降るような貴方の瞳
届かないそのかがやき

指先が目のふちを沿う
貴方がそうして下されなければ
涙していることさえわからない
ああそうだろう
分ったところでどう仕様もないのだから

遠い遠い場所 眩暈がするほどに
しかし貴方の星のかがやきは
確かに私のもとに届くのだ
触れられぬのだとしても
近付けばただの石くれなのだからと
宝石のようなその輝きを遠くに眺めていた方が
まだ安らかかもしれない
しかし私は寂寞とした星を抱きたい
貴方の心も休まるのなら

私が貴方に重なってしまえば
貴方には私が見えなくなるだろうか
遠い星にまた思いを馳せるのだろうか
それでも構わない
私には涙はわからないのだ
貴方が私を消してしまって
遂に痛みを感じるなら
やはり貴方のせいで、涙がわかるのだから

10. 月に捧げる
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