バナジスの瞳美樹へ

バナジスの瞳

貴方が創造した草原
戯れに遊べば
貴方が回した酒が鈍くして
じりじりと燻ぶったまま
しかし甘い酒はいっそう水を蕩かして
触れるだけで溶けてゆく

橙の雲だ
燃えるような雲
貴方の瞳に

その炎のなかに私がいないことに気付く
その瞳に映っているはずの私が
空と貴方の間に跨って
貴方を占めている筈の私の姿が
そう気付けば私が映る
感情が安堵して眠る前に
理性が寂しさを訴える前に
私も貴方を透明にしていたことに気付く
橙色の雲のなかに

いっそ目を閉じてしまえば
揺りかごだった貴方は消え
草原だけが残る
しかし瞼を開けるのは
確かさの為だけではなくて

星降るような貴方の瞳
届かないそのかがやき

指先が目のふちを沿う
貴方がそうして下されなければ
涙していることさえわからない
ああそうだろう
分ったところでどう仕様もないのだから

遠い遠い場所 眩暈がするほどに
しかし貴方の星のかがやきは
確かに私のもとに届くのだ
触れられぬのだとしても
近付けばただの石くれなのだからと
宝石のようなその輝きを遠くに眺めていた方が
まだ安らかかもしれない
しかし私は寂寞とした星を抱きたい
貴方の心も休まるのなら

私が貴方に重なってしまえば
貴方には私が見えなくなるだろうか
遠い星にまた思いを馳せるのだろうか
それでも構わない
私には涙はわからないのだ
貴方が私を消してしまって
遂に痛みを感じるなら
やはり貴方のせいで、涙がわかるのだから

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