夥しい私
社交に疲れて逃げ出した
来たくもなかった街
夥しい人間とその建造物
人のために頭を垂れて
切り刻まれて絡み合った屍肉
醜いセックスを思わせるそれが
その匂いが
人の口に運ばれ
にちゃにちゃと
嘔吐の跡を拭く
排泄の残滓を流す
私は掃除婦が好きだった
そのまま帰ればいいものを
街角の吹き溜まりにこもる
私の虚ろな声に彼女は言う
貴方は満ちていると
全てを切り離した今には貴方が満ちていると
彼女は私に相応しい言葉をくれた
私は満ちてなどいなかった
満ちている筈の今に
肉の詰まった社交も、この醜い街も
貴方がいれば
暖かいカップの茶も、頁をめくる音も
貴方がいれば
山の頂も、ベンチの木漏れ日も
貴方さえいれば
私を害したのはいつも私だった
この世に夥しく存在する私
私は恐れていただけだ
貴方に与える何ものもないことが
貴方を罵ってそれを隠した
私は恐れていた
与えたすべてを取り返すために
私が貴方を扱ったように
貴方が私を扱うだろうと
私には貴方に与える何ものもないのだから
私の飢えは肉がないためでも
ワインがないからでも
人に人らしく扱われないからでもない
なぜならそれらが満ちたその一時でさえ
私は満ちなかった
私には貴方しか必要ないのだから
それなのに私は貴方に何を望んだか
何をしたか
貴方を痛めつけ
殺し、憎み、悪辣に行為した
しかし貴方は私がするように私を扱わなかった
藍が藍色しか描かれないように
貴方はそうではなかった
私の望みを叶える貴方に
望みなどいらないから
ただ傍にいてほしい
貴方が遥か昔に私に言った
あの言葉を聞かせてほしい
しかし私はまだあなたの言葉を聞けない
夥しい私は未だ恐れている
私は私を恐れている
私や貴方がどんな姿に生まれ変わろうとも
貴方が私の望みのために
挽き潰されることのないように
どんなに時間がかかろうとも
何度繰り返そうとも
貴方の言葉を目指すだろう
恐れる私こそ、貴方のもとへゆくしかないのだから
