看病の巻老人とりんご

看病の巻

りんごはぼおっとしていました。
ごろごろごろごろしていました。
オレンジはりんごを蹴りました。
もっと転がると思ったからです。
親切心です。

りんごはお屋敷に入りました。
リビング、客間、台所。
老人はどこにもおりません。
ひろいひろいお屋敷の中は、とても静かで、ぽっかりと穴が空いているようでした。
ごほごほと老人の咳の音が聞こえました。
りんごがすっ飛んで行くと、そこは寝室でした。
ふくらんだ布団の中で、老人は寝込んでいました。
額におしぼりがのっています。触ると、ひどい熱です。
りんごは慌てて
「……」
慌てて、困りました。
額のおしぼりを掴んで、老人が起き上がりました。
りんごはびっくりして、寝ているようにと身振りしましたが、老人はひとことも言わず、そのまま洗面所へ行きます。
冷たい水で顔を濡らし、老人は、額にあったおしぼりを水で濡らして、ぎゅう、ぎゅう、と絞りました。
「れもん水」
りんごは庭へ走りました。

りんごは老人の傍にいて
老人の顔をじいっと見て
おしぼりをかえ
顔を拭いたり
意味もなく撫でたり
暗くなってもずうっとそうしていました。
そうしているうちに、老人の顔の赤みがなくなって
寝顔がおだやかになりました。
りんごは老人の隣のスペースが気になりました。

老人が目を開けました。
隣にはりんごが寝ていました。
丸くて大きい体には、毛布が届かなくて、りんごの片腕にかかっているだけでした。
老人は起き上がって、りんごのまるい体に布団をかけました。
辺りを見た老人は、部屋が随分散らかっていることに気が付きました。
老人は溜息を吐いて、ベッドから立ち上がり、床に転がったコップや紙くずをそのままにして、椅子に座りました。
老人は本棚の本の中から、手紙を一枚取り出して、開きましたが、じっとりんごを眺めていました。

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