生にえの巻老人とりんご

生にえの巻

りんごはれもん水を作りました。れもん水は老人の好物でした。
庭にはレモンがたくさん成っています。
あれからりんごは老人の傍にいるようになっていました。
老人の周りをうろついたり、老人の裾についた草を払ったり、お茶を淹れたりしていました。

お昼になりました。
ぴんくいろの腹をしたちいさな虫が二匹、おんなじところでぶんぶん飛んでいます。
老人は手紙を置いて、庭を歩きました。
果樹園を歩いて周りを見渡して、草木の茂る庭の石畳を歩きます。老人はしゃがみ込んで
繁みの下を覗きました。
繁みのなかでぼんやり眠っていたおれんじ溜まりが、目を開いて足を立て、ぴしっと恰好をつけました。
池まで歩いて来た老人は、遠くを見ていました。


老人が戻ると、庭の机の前にラフランスとオレンジがいました。
コック帽をあたまにのせたラフランスは、どこか誇らしげです。
机の上には、銀の蓋がのったお皿がのっていました
オレンジの手によって蓋があけられると……そこにはりんごがいました。
なんだかぐったりしたりんごの腹の上に、バターと茶色い砂糖がかかっていました。
りんごのこんぽーとでしょうか。
りんごはちらっと老人を見るように、少し顔を傾けました。
老人は困りました。オレンジやラフランスならともかく、何日も一緒に過ごしていたりんごを食べるのは、さすがに気が引けます。
ラフランスがコップを指さしました。
れもん水です。
それもそうかと思って、老人はりんごを食べました。

中の方がすこしシャリっとして、あまり火が通っていないようでした。あまり美味しいものではありませんでしたが、残すのはますます気が引けるので
へたと腕と脚だけ残して、食べきりました。

皿が下げられ、机の上は綺麗さっぱり片付けられました。
老人はなにもない机の上をぼんやり見ていました。
淡い空に雲ふたつ。
も、も、と流れていきます。
犬は死んだ飼い主の顔を食べるらしいと老人は思い出しました。
老人はかたちの歪なものを庭の机に残し、お屋敷に帰って寝てしまいました。

次の日庭に出ると、りんごはまたそこにいました。

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