濡れ雑巾
路上には項垂れた人々。割れた注射器。
石の階段を登り、扉を閉めた。
家に入り、袋を取り出す。阿片を切り取って袋の中に戻す。残りを袋に戻して暖炉の煤の中に投げ込んだ。
パイプを取り出してソファーにもたれ、火をつける。
沈む。
ふっと路上の光景が見えた。私はソファーから立ち上がって外に出た。
扉の前の階段に座って続きを吸う。
視線を感じる。
こういう時は、目を合わせないことだ。
「なに吸ってんの」
「阿片だよ」
「ふーん」
ぼんやりした声が返ってくる。興味なんて欠片もない声色のくせに、彼は去らない。まだ私の前で立ち尽くしている。
「おっさん。吸わせてよそれ」
「嫌だ」
「えええ!? けち!」
はああ~~と気落ちした声がする。驚くことでもないし、ガッカリすることでもない。貰えるわけがないのだから。
彼は私の隣に座った。思い切り肩が触れているし膝もぶつかっている。
彼は何かごそごそと取り出した。紙が擦れる音がする。口に含んだ。何の薬だ?
私は顔を上げて彼を見た。パイロットキャップを被ったソバカスだからけの青年だった。
「何だそれは」
「チョコレート」
「……」
「はあ。コーヒーがほしい。チョコレートを食べる時だけはコーヒーが恋しくなる」
「淹れてやろうか」
「本当?」
青年がこちらを見た。気の抜けた丸い目をしている。
「でももう、チョコレートないから、いいや」
青年が立ち上がった。濡れ雑巾が立っている様だ。弛緩性の薬でも打っているのか。
「ばいばい」
青年は去っていった。