とり。
「六郎さんは何しに来たんだ」
「ええっとねえ。まず宇宙から来てさ、でもよく分かんなくなっちゃって。なんか死のうとしちゃったんだよね。でもすぐやめたよ。だって僕が死ねば、僕が死んで嬉しい奴が喜んで、僕が死んで悲しい奴が悲しむんだ。むかむかするしやるせないよね、そんなの」
いいなあ元気があって。と七郎は言いました。
「なんで君は元気がないの」
「合わない」
「……」
「ここが合わない」
「うん」
草原で日向ぼっこしてごろごろして。たまに果物を食べて。俺はそれだけでいいんだけどな。みんなそうじゃないらしいんだ。みんな草よりアスファルトが好きだし、虫より店が好きだ。果物より肉が好きで、のんびりするより急ぐことが好き。ぼうっとするより為になることが好き……ごろごろして、ごろごろして、それだけでいいんだけどな。それはすごく贅沢なことらしい。でも別にまたいじゃえばどうってことないけどさ。週二日働いて、小さな家に住んで虫と話してればいいんだから。でも、やっぱり……
「気持ち悪くなった?」
六郎が言葉を続けました。
「まあ、そうだね」
車は山をのろのろ下っていきます。七郎は座席に沈み込み、窓の外を眺めていました。
言葉もなくなった車の中、窓の外の木々がただ流れていきます。
七郎が口を開きました。
「お……」
「七郎さん」
叫び声。今度は男の声です。
倒れた墓石のように草むらに突っ伏していた筈の女が、荷室から這い出て七郎にすり寄っていました。
「なんで連れて来た」
「なんでって」
「七郎さん」
「う」
「ごめんなさい、七郎さんが不器用だって、私分かってたのに、動転しちゃって、本当にごめんね、ゆるして……」
七郎は身体が固まってしまって成す術もなく、女の手がその肩に触れました。
ぶぱん。
女の腹をぶち破り生き物が飛び出しました。弾けた汁や肉片が七郎の全身に浴びせられました。
しかしそれは人間が弾けたらしいどろどろした質感はなく、透明でさらりと乾いていて、軽かったのです。
女だったものは緩衝材の紙くずみたいにくしゃくしゃになって散らばり、代わりにくちばしを持った生き物がそこにいました。生き物は大きなきらきら光る瞳を持って、新しい世界を確かめているようでした。
(人間じゃない)
七郎は胸のときめきを感じていました。七郎は無意識にその生き物に手を伸ばしていました。
「触るなカスが」
生き物はすごくいやそうな顔をして七郎にそう申し付けました。
「君のこと嫌いにしといたよ」
「あ、そう……」
二人と一匹を乗せた車は、山を下っていきます。
