つまり全裸である全身称美少女
「美樹さん、図道美樹さーん。いらっしゃいませんか」
タナカは戸を叩いた。軽やかな声の影でタナカは緊張していた。これから相対するのはこの拡張日本に嬌名馳せる図道美樹だ。その美貌たるや追随する者他になく、その美に裏付けされた実力は天をも凌ぐと云う。
とっとっとっと扉の奥で音がする。扉が開けられ、明るい笑顔と歓迎の声が届けられた。
「はーい、ありが」
家主の爛々とした笑顔はみるみる無表情へと変わった。ひんやり冷めきった声色がタナカに突き刺さる。
「誰だ貴様」
「その恰好は」
その恰好というのは天は人の上に人を造らず貴賤如何なく平等に与えられる衣、つまり全裸である。
「すまん涼んでた。しかしだ、そもそも見知らぬ男の家の戸を叩く貴様に甚だしい落ち度がある。
この光景を網膜に焼き付け猛省するがいい」
黒い草原に聳える噴火口がタナカの目を捉えて離さない。
「しかしその恰好のままだとちょっと」
「それもそうだな」
そう言って美樹は扉を閉めた。しかし「着替えたぞ」という声と共に再び出てきた姿はタンクトップ一枚。腿から溢れる豊穣の実は障子の奥に潜むことで香を燻して視線を呼び、タナカの理性を激しく揺さぶった。
美樹は威嚇のつもりであったが、それが美樹の想定とは違う内情を魅せていることに自覚がなかった。美樹は本土出身でありその価値観を色濃く残しており、拡張日本での他者との交流は少なく、自分がどう見られているかに対して本土と同じ評価、つまり「オッサンの裸は見られたものではない」を持ち続けていた。
「それもちょっと……まあいいや」
タナカは視線を首から上に固定し話を進めることを優先した。
「同性間交流が一般的とされている現状をご存じですか」
「存じてるが」
「この拡張日本での生殖減少は甚大な問題です」
「そうらしいな」
拡張日本は人の肉体的性別を反転させることで材とすることに成功した拡張空間である。しかし性的嗜好は脳の性別であるまま維持され、本土でいう同性愛が一般的になった。拡張日本の維持には積極的な材の創造が必要不可欠であるが、依然として同性愛者間では材のもととなる子を孕むことができない。しかし本土から投与される人は材としての利用効率が低く、かつ本土の状況は拡張日本では知ることができないため材の供給が続くかどうか安心はできない状況だ。やはり拡張日本の中で子を産み育てることが健全な土地の維持に貢献するとされている。
「私たちはその促進のために様々な活動をしていまして」
「生殖キャンペーンだな」
「男子に猛烈な人気を誇る図道さんに、オファーを」
「断る」
「あの」
「断じて断る」
美樹が聞かされる自分の”人気”は非常に気味の悪いものだった。本土では嫌という程無視され軽蔑されていたのに、拡張日本へ来てからコロッと人の態度が変わった。この人心の有様の両端は不気味でしかなかった。
「貴様の話は終わりだ。貴様どうやってここに……」
「ご興味ないんですか。ご職業柄、こういった問題に関心があるのでは?」
「私の信念を決めつけるな。あれはただの破壊衝動だ。消えるまでやるただそれだけだ。もう十分貴様の話は聞いた。私の問に答えろ。貴様はどうやってここに来た。私の扉を探索できるとは余程厄介な輩と見た。回答によっては貴様が材になるまで閉じ込める」
タナカは項垂れて、問の答えを差し出した。
「これです」
「そ、それは」
それは一本のゲームだった。美樹が信頼する店主に頼み、今日届く筈だったものである。
美樹は激しく動揺した。と同時に状況を受け入れた。
「……わかった。引き受けよう」
「え」
「しかし受けるからには、真剣にやらせてもらう。ふざけたら絶許だ」
「はい、有難うございます!」