こねこねる
「麻薬を始めたのは19の頃だ。最初は、天然のものだった」
「天然?」
「子供が撒いている」
「それはどういう物質だ」
「話した筈だ。調書の3頁目に書いてある」
オッサンは紙切れをめくった。右耳をホッチキスで留めた痩せたコピー用紙。
ああ、と紙面を追ってオッサンが紙切れを閉じる。
「君の犯した罪だが」
「麻薬及び向精神薬取締法違反、関税法違反」
「それとアヘン取り締まり法違反」
「ヘロインはやらない。あいつはやるが」
「あいつ? 仲間か?」
「友達だよ。刑事さんが前取り調べた」
「楊犬人か」
「そうだ」
「あいつは絶対、やってると思った。でも証拠が出なかった」
「また行けばいいさ。やめようっていってやめられるもんじゃない。命に関わるからね」
ふんと鼻を鳴らして、オッサンは紙切れにペンを走らせる。私は左手の人差し指を見せた。
「割印」
灰色のポリスメイトがひらいて、指先が真っ黒になる。
オッサンが出て行ったから、背中にひっついていて寝ていたにゃん太に顔を向けた。私が動いたせいか薄目を開ける。
「なんか食べるー?」
首を掻いてやると再び瞼を閉じて寝てしまう。猫は気紛れと聞くが、子猫となるとそれはもう予測がつかない。鳴いて鳴いて、餌やっても顔背けて、食べないと思ったら、食べるし。
「アニキ」
「おう、犬人」
「また来てたの」
「ああ」
「アイツの相手するなんて人が良すぎだよ」
「暇だしな」
「子猫の世話で忙しいだろ」
「背中で寝てたさ」
「ええ? いいのかよ。俺、お菓子食ってたら怒られたよ」
「薄暗かったせいか」
「ふうん。じゃあカツ丼美味しいですって言って食えばいいかな」
「ん?」
「取り調べ室なんて蛍光灯で壁が眩しいくらいなのにさ。薄暗い取り調べ室なんてあるの、古いドラマの中だけじゃん。だからカツ丼」
「お前のことを伝えておいた」
「は?」
「あいつはヘロインをするって」
「えええ? なんで」
「話の流れさ。今度来るかもな」
「うへえ」
「ところでどうして分かったんだ。オッサンが来たこと」
「車だよ。車。80年代の煤けたマーク・ツー。いい車だってのに、乗り主に似ちゃってつまんなそうな顔してるんだよ」
車でも似るなら、子猫は尚更だろうか。にゃん太も私に似て自堕落になってしまうのだろうか。
「ああいう手合は、カーブもきっかり曲がるんだぜ。止まるんじゃないかってくらい減速してさ」
「子猫でも飼えばいいんだ」
「犬は飼ってたよ」
「へえ」
「警察犬だって言ってさ、俺を襲ってきやがったから、殴っちゃって」
「怪我をさせたのか」
「そうだけど、殺しちゃいないよ。ただ、あいつの犬になるのはやめちまってよ。今ごろ俺の家で腹いっぱい食べて眠ってるよ」
「……」
「本当だよ。今度見せるからさ」
この辺りで犬の声など、していただろうか。