一緒にいるのに重要なこと殺れ!エリザ

「はあ、ああ」

限界だ。あの波が来る。ぜんぶ掻っ攫って、なんにも失くなってしまうあの波が。ただその期待の為にこうして時間を賭す。
女は生理だのなんだの言うが、こっちの生理だって大ごとだ。女の生理は肉を食わなきゃ収まるが、男の生理はどうやったら治るんだ?
ふっと眠気がする。身体まるごと毛布に包まれたような。初めての感覚——

草原。
山並みの下を流れていく。

「あれ?」

心地良い揺れの中、窓の外の景色がどこまでも流れていく。

「……」

汽車の連結部が離れる。俺を置いてどんどん進んでいく。どんどん先へ。小さくなって、輪郭がぼやけ、霞の中へ消えていく。

目が覚めるとエリザの手に銃が握られていた。そう、銃だ。女の手にそれがあるのは、まあ自然なことだ。それが誰のものかというのが問題でもあるが……
ん?
はっとして自分の股座を弄った。
ない、ない。あるはずのものがない。
エリザはトイレの扉を開けて行ってしまう。俺はズボンを上げて後を追う。抜け出た先は河川敷。エリザの肩を掴む。

「エリザ、あたし……」

怪訝な顔でエリザがこちらを見返す。その顔に伝えるべき言葉が見当たらない。

「まず口調を戻せ。話はそれからだ」
「でもあたし今アタシって感じなの」
「そうか。では話さん」
「待ってよ、ひどいわよ。女の子一人置いてくっていうの」
「離せ気色悪い!」
「気色悪いって何よォエリザ。さっきあんなことしたじゃない」
「気色悪さは不可解な物事に対して起こるものだ。30過ぎの成人同士が同意の上で及んだ性行為に不可解さなどない」
「そーよアタシだって分かんないんだから。何とかしてよ。エリザは何が起きたか分かってるんでしょ?」
「うーむ」
「とにかく乗る?」

エリザを連れてここまで乗って来た俺の車を親指で指した。ノルウェーのぼろ車。右後方の扉が取れる。この車を使うのは、今のところこの子しか縁がないからだ。車に限らず人生そんなものだろう。一緒にいるのに一番重要なのは一緒にいることだけだ。
エリザは無言で車の後方座席に乗り込んだ。左から。